夢のリニアモーターカー

子どものころ想像した未来というものは、それぞれの世代にとって違うものだ。空飛ぶ自動車だったり、鉄腕アトムのようなロボットだったり、宇宙家族ロビンソンみたいな宇宙旅行だったりいろいろあるだろう。

とはいえ、子どもながらに「これは無理なんじゃないかな」なんていうのもあったりする。たとえば、僕たちの世代の一世代前に描かれた未来予想図なんかにつきものの、運転手のいない空飛ぶ車なんていうのは、スーパーカーブームがあった僕たちの世代にとっては、そりゃないだろうという代物だ。

そして小学生ぐらいの僕たちが、来たる21世紀に確実に実現しているだろうと思っていたのがリニアモーターカーだった。今の僕の年ぐらいになれば、東海道新幹線はリニアモーターカーにとって変わり、最高時速500キロで走っているはずだったのだ。どんな少年雑誌にもリニアモーターカーの原理はイラスト入りで書かれていたし、リニアモーターカーの実験線(宮崎・現在は山梨に移って廃線)はかなり早いうち(調べてみたら1977年)から走っていたから、今の携帯電話の普及よりはよっぽど真実味があった。

ところが待てどくらせど一向に実用化されそうにない。実験線は予約すれば乗れるらしいが、行ったこともない山の中じゃしょうがない。ここからここまで、従来なら何時間かかったのが何分になった、そういうのがないとダメなのだ。

どうなっているんだ!と思っていたら今年やっと、愛知万博でリニアモーターカーが走るという。先日、客の乗りすぎで走り出せないという事故まであったが、それだけ期待が大きいということだと思う。だがちょっと調べてみて、僕はがっかりした。

なんと、こいつはどうがんばっても時速100キロしか出ないらしい。

開発者には悪いが、さんざんあおっておいてそれはないだろうという感じだ。いくら磁気で浮上してようと、新幹線より遅いのでは意味がない。

本当に開発者には悪いのだが、バカにするなといいたい。30年以上待ってやっと出た結論がこれか!いや、これが国鉄(当時)が開発していたものではないのは分かっている。分かっているのだが、やっぱり許せない。リニアと名が付く以上はせめて新幹線よりも1キロだけスピードが出ることにしておいてほしい。実際は出さなくてもだ。

さらにくやしいことに、この愛知万博のリニアが走る二年もまえ、すでに実用化されたリニアモーターカーが営業を開始している。こいつは時速500キロとはいわないが、430キロ出るのだ。それが、上海浦東空港と地下鉄の駅を結ぶリニアモーターカーである。これがドイツ製だってところも悔しいことの一つだ。

リニアの看板

もちろん、これの存在は知っていたのだが、僕はまだ乗っていなかった。別に中国に先を越されて悔しいからではない。僕は鉄ちゃん(鉄道マニア)ではないが、ここまで書いてきたようにリニアモーターカーには特別の思いがある。悔しいより何より乗ってみたいのだ。

ところがどういうわけか、始発と終電(っていうのか?)の時間が異常に短い。いつも飛行機代をけちって夜中に付く飛行機だの、早朝に出る飛行機だのに乗っている僕には乗ることができなかったのだ。ところが今回、これに乗ることができた。ちなみに中国語では「磁浮列車」という。

僕と自転車旅行でおなじみのT氏は、先に帰国する二人を送ると、予定どおりリニアモーターカーの駅に向った。浦東空港からはそのまま行けるようになっている。時間を見ると、始発まで一時間ほどある。切符もまだ売り出していない。

駅にはローソンがあったので、おにぎりとビールを買って、ベンチでそれを食べながら、出発のときが来るのを待った。ビールのせいもあるが、T氏、妙にハイテンションである。だいたいT氏がハイテンションのときはロクなことが起らないので、僕だけは冷静にならなくちゃいけないのだが、なにしろ30年間来の恋人に会うようなものだから、僕もハイテンション。

しかし、やっぱりロクなことは起らない。気がついたら発車まで数分にせまっていた。

「やばい!走れ!」

切符売り場

これは到着駅の切符売り場。
最先端の乗り物に切符売りのお姉さん!そこが中国!
切符、二種類しかないのに・・・。

どっかで聞いたフレーズだなと思いながら、あわてて切符を買って改札を抜け、地下鉄のように階段を走り降りて夢の高速列車に飛び乗った。運賃が高いせいかガラガラである。よかった間にあった。これを逃がすと、あと1時間待たなくてはならないのだ。

ちなみに料金は普通席で50元(650円)、貴賓席で100元である。浦東空港から上海の中心部までタクシーに乗ると120元ぐらい、バスなら上海駅までが10元ぐらいだからかなり高い。それにこれは地下鉄の終点までしか行かないから、そこで乗りかえないと上海の中心部にはいけないのだ。浦東空港から龍陽路駅までの走行距離は30キロぐらい、なにしろ最高時速430キロだから、10分もかからない。たった10分のために貴賓席なんか乗るやつがいるんだろうか。

そんなこんなでリニアは走り出した。「意外と普通だね」なんて言っていたら、通路の上の電光掲示板はもう100kmになっていた。しかし、静かだからそんな感じはしない。やっぱ普通じゃないぞ。

その後もぐんぐんスピードは増していき、ついに時速430キロに。しかし、近くに家があるわけではないし、直線を走っているだけだし、騒音もほとんどないので、やっぱり「意外と普通だね」。だが、T氏おおはしゃぎ。電光掲示板を指さして記念写真なんか撮っている。近くに座っていう女の人の冷い目線。かまうもんか。これは僕たちにとって30年来の恋人なのだ。

時速430Km

見よ!時速430キロ!見よ!この未来的な車内!
個人的には「430公里」がよかったなぁ。

隣りの高速道路を走る時速100キロぐらいで走っているはずの車が止っているように見える。やっぱり速い。そしてカーブ。これはすごい。もう430キロの最高時速ではなかったが、電車では味わえない感覚だ。もう、このために乗ったといってもいいだろう。

ものの10分もしないうちに、終点の龍陽路駅に着いてしまった。もちろん記念撮影。それは僕たちばかりじゃない。

上海のリニア

恥ずかしながら、記念撮影。

と、ここで、僕の興奮はいいかげんおさまったが、T氏はまだハイテンションである。龍陽路駅にある資料館を丹念に見て、おみやげにけっこう大きいリニアの鉄道模型を買っていた。

T氏いはく「どうせ帰ったら欲しくなるんだから買っときなよ〜」

Tさん、中国から帰って一ヶ月たちますが、まったく欲しくなりません。


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